福山駅から数分
そこには四月の少しだけ乾いた空気が流れていた
僕は「尾道ラーメン 一丁」の暖簾の前に立っていた
開店間もないというのに
そこには既に数名の待ち客がいた

並んでいる人々の多くは
使い込まれたキャリーバッグを傍らに置いていた
おそらく彼らは
遠いどこかからこの街へ
何らかの目的を持ってやってきた出張者たちなのだろう
彼らが店から出てくるとき
その表情には
未知の街での重要な儀式を一つ終えた後のような
奇妙に澄んだ沈黙が宿っていた
入口の脇には券売機があった
僕はそこで「ラーメン」のボタンを押し
印刷された小さな紙片を手に入れた
それはこの店という小宇宙へアクセスするための
唯一の通行許可証のようなものだ
店内はまるでうなぎの寝床のように細長く
カウンター席だけが整然と並んでいる
ストゥールと壁の間には
人一人がやっと通り抜けるための
最小限のスペースしか残されていない
誰かとすれ違うことなんて
そこでは物理的に不可能なのだ
僕はその細い隙間を慎重に通り抜け
カウンターの隅に腰を下ろした
店員に食券を渡す
僕もまた
これから別の街へ向かう一人のサラリーマンとして
この通過儀礼に参加しなければならなかった

「ラーメン」
程なくして目の前に置かれた器の中には
一つの完成されたルックスが提示されていた
背脂が水面を
まるで北極の流氷のように隙間なく覆い尽くしている

不思議なことに
そこからは湯気が立ち上がっていない
厚い油の膜が
内部の熱量を完璧に封じ込めているからだ
もしあなたが何も考えずに無防備にスープを啜れば
苛烈なしっぺ返しを食らうことになるだろう
それは
不用意な接触を拒む世界の仕組みが
僕たちに与える無言の警告のようなものだ

チャーシューは驚くほど白い
そのほとんどが脂身で構成されていて
口に含むと
形を持った意識が溶けていくように消えてしまう

井上製麺所の麺
それはスープの熱い迷宮の中を
優雅に
かつ毅然とした意志を持って泳いでいる
平打ち気味の麺が背脂を絡め取り
僕の口の中へと運ばれてくる
嘉味!

僕は最後まで
余計な言葉を発することなく麺を啜り続けた
背脂の層の下に隠された
醤油の深いコクと魚介の風味
それは
目に見えるものだけが真実ではないということを
静かに僕に教えてくれているようだった
最後の一口を飲み干し
僕は席を立った
壁を背にした客たちの邪魔にならないよう
細心の注意を払って出口へと向かう
店を出ると
四月の風が僕の火照った顔を撫でた
僕は重い荷物を持ち直し
駅のホームへと向かう
世界は相変わらずそこにあって
僕はまた
僕の役割を果たすために次の場所へと移動しなければならない
ごちそうさまでした

僕が地元・福山や笠岡のリングで実直に向き合ってきた至高の記録は、こちらの【福山 笠岡 ランチ ラーメンおすすめ決定版リスト】にすべて整理しています




