福山の街を歩いていると
時として奇妙に静かな夜に遭遇することがある
僕は「創作レストラン 明」のドアを開けた
ランチタイムには予約を取ることさえ難しいと言われる人気店だが
その夜の店内は
僕たちを含めて三組の客しかいなかった

店の中には
尾根遺産の二人組と
おそらくは米国人であろうと思われるカップル
そして僕と女性二人の三人
シェフが一人でキッチンを守っていたけれど
客が少ないせいか
料理はまるで精密な時計の歯車が噛み合うように
ちょうど良いタイミングで僕たちのテーブルへと運ばれてきた

まず最初に
僕はビールを頼んだ
冷えた液体が喉を通り抜けるとき
日常の些細なノイズが少しずつ遠のいていくのがわかった

「おまかせ前菜の盛り合わせ5種」から僕たちのディナーは始まった
驚いたことに
シェフはそれをあらかじめ一人前分ずつ
丁寧に分けて出してくれた
大皿から取り分けるという些細な労力を肩代わりしてもらうことで
僕たちはより純粋に
目の前の料理と向き合うことができた
それはとても正しい配慮であるように思えた

ブルスケッタを齧り
本日のスープを啜る

温かな液体が胃に落ちるのを合図にするように
僕は二杯目のグラスを求めた

ハイボールだ
ウイスキーの香りが
スープの余韻と心地よく混ざり合う
カプレーゼを注文したとき
シェフは申し訳なさそうに「モッツァレラチーズを切らしてしまった」と告げた
注文は一旦キャンセルになったのだけれど
しばらくして彼は
クリームチーズを使った「カプレーゼ風」のサラダを即興で作り
テーブルに届けてくれた

モッツァレラの不在を埋めるために用意されたその一皿は
本来のそれよりも
どこか優しくて親密な味がした

白ワイン
グラスの中で揺れる透明な液体は
次にやってくる料理たちを迎え入れるための
完璧な準備のように思えた

「アマトリチャーナ」のトマトソースの酸味と
「熟成ソースのリゾット」の深いコク

三人で皿をシェアしながら食べるというのは
一種の幸福なコミュニケーションのようなものだ
言葉にしなくても
素晴らしいものを共有しているという事実に
僕たちはただ静かに同意していた

メインは「牛さがり肉のタリアータ」
肉の焼き加減は完璧で
ソースがそのポテンシャルを静かに引き立てていた
それはとても正しい肉の食べ方であるように思えた
嘉味!
食事が終わる頃
シェフがデザートをサーヴィスで出してくれた
僕が女性二人を連れていたからかもしれない
理由はわからないけれど
予期せぬ幸運というのは
いつだって人生を少しだけ明るいものにしてくれる
店を出ると
四月の夜風が心地よく僕たちを包んだ
ランチの喧騒とは無縁の
贅沢なほどに穏やかな時間
僕たちは満足感とともに
夜の闇の中へと静かに歩き出した
ごちそうさまでした




