「天丼てんや」のドアを開けると
そこには安定した油の香りと
高度に効率化された清潔な空気が流れていた。
僕はカウンターに座り
初めて注文する「海鮮かき揚げ天丼」の到着を待つ。

運ばれてきた丼を俯瞰すると
そこには一つの完結した
しかしどこか過剰な質量を感じさせる風景が提示されていた。

主役は
丼の表面をほぼ制圧している巨大なかき揚げだ。
箸を差し入れると
サクッという軽やかな
しかし確かな抵抗を感じる。
その中には
海老と小柱がこれでもかという密度で閉じ込められている。
それは
海鮮という名の資本を惜しみなく投入した
リッチな構造体だった。

まずは一口
そのサクサクとした食感を楽しむ。
海老のぷりっとした弾力と
小柱の繊細な甘み
それらが天ぷら粉という結合組織によって一体化され
口の中で幸福な情報の集積体となる。
しかし
物語は中盤から予期せぬ摩擦を生み始める。
てんやのタレは
僕にとっては少しばかり主張が強すぎたのだ。
その濃密な甘辛さは
かき揚げのヴォリュームと共鳴し
中盤を過ぎたあたりから僕の味覚に静かな
しかし確かな飽和という名の警告を送り込んできた。
やれやれ
僕は心の中で小さく呟く。
このままでは
この丼が持つ濃密な重力に飲み込まれてしまう。
そこで機能したのが
脇を固める静かな装置——味噌汁と沢庵だった。
味噌汁の温かさがタレの脂を優しく解き
沢庵のポリポリとした食感と酸味が
味覚の周波数を元の場所へとリセットしてくれる。
それは暴走しがちな濃い味のベクトルを
再び正しい日常の軌道へと引き戻してくれるバッファーのようなものだった。
その助けを借りて
僕は最後の一粒までその海鮮の要塞を攻略し切ることができた。

嘉味!
店を出ると
四月の風は驚くほど軽く感じられた。
海老と小柱がいっぱいのサクサクしたかき揚げ
それは確かに美味しい。
けれど
それを受け止めるためには
僕たちの側にもそれなりのシステムと
適切な相補関係が必要なのだ。
ごちそうさまでした。

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